施術ベッドの脇で次回の来院をすすめる院長とハリーちゃん

自立の教科書 第2章 / 01 of 03 / 全文無料

売上50万円に到達しない方は、
ここが欠けています

開業1年目、僕の月商は50万円を超えられませんでした。技術でも、集客でもありません。欠けていたのはお金のマインドブロックでした。それが外れた月から、50万円を超えました。

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この章は、教科書の第1章(固定費最適化)のあとに置いています。固定費を見直して、月1万円でも浮かせることができたなら、もうあなたは「変えられる人」です。自分の意思で、今の生活を小さく動かせた。この事実が、ここから話すマインドの入口になります。

そして先に言っておきます。この章でお伝えするのは、精神論ではありません。僕が12年かけて作った「通院指導の型」と、実際の料金の推移を、数字ごと全部出します。

「技術さえあれば食える」は、幻想でした

早朝のグラウンド脇で腕を組む院長とハリーちゃん
早朝のグラウンド脇で腕を組む院長とハリーちゃん

いきなりキツいことを言います。技術さえあれば食える。これは幻想です。僕自身、この幻想を信じ込んで、痛い目を見ました。

来院した人数と売上が一致しなかったことを示す図
来院した人数と売上が一致しなかったことを示す図

技術があっても、来てくれた患者さんに「また来てください」と言えなければ、売上は積み上がらない。来院数と売上が、まったくリンクしない現実を、開業初月に叩きつけられました。

僕がJリーグを辞めた日

元Jリーグ・ヴァンフォーレ甲府のトレーナーを10年やりました。プロの選手の身体を毎日見て、手技の引き出しも増やしてきた。自分の技術には、それなりに自信がありました。

だから開業するとき、正直こう思っていたんです。

「自分の腕なら、どこでやっても食えるだろう」

これが、最初の勘違いでした。

初月の売上は、6万円でした

2014年1月14日、妻の地元である館山でプレオープンしました。僕自身は、この町に知り合いが一人もいませんでした。

プレオープン初日、緊張しながら待っていました。来てくださったのは、2名。「ありがたい」と「ほっとした」が同時に来た、忘れられない日です。

もちろん、ゼロの日もありました。でも正直な実感を言うと、「思ったより来てくださった」。プレオープンからの約2週間で、延べ19名(うち新規17名)が来院してくださいました。上々のスタート。そう思いました。

ところが、蓋を開けたら、初月の売上は6万円。

プレオープン期の割引メニューとはいえ、痺れる数字でした。「あれだけ来ていただいたのに、この売上?」。人数と売上は、まったく別の指標なんだと、身をもって知った瞬間です。

ちなみに、正式オープンの2月14日は、館山では珍しい大雪で、予約はゼロでした。午後に飛び込みで来てくれた一人の患者さんが、その日のすべてでした。

患者さんは来てくれた。でも売上にならなかった

誤解のないように言います。お客さんが来なかった、という話ではありません。 新規の方は、ちゃんと来てくださっていた。なのに売上は上がらない。理由はたった一つです。

「通院指導」が、できなかった。

目の前の患者さんに「来週、もう一度見させてください」と言えなかった。回数券を案内できなかった。次回の予約を、その場で取れなかった。だから1回きりで終わる方が多かった。

新規がどれだけ来ても、リピートに繋がらなければ、売上は積み上がりません。これは集客の問題ではなく、自分のマインドの問題だったと、後になって気づきました。

来てくれた患者さんは「楽になった」と笑顔で帰ってくれる。技術者としての手応えはある。でも、パソコンに入力する売上の数字は、その手応えとまるで釣り合わない。その小さな違和感が、毎日少しずつ積み重なっていきました。

新患247人。それでも2回目が来なかった

数字で出すと、こうです。

開業1年目の新患は、1年間で247人。月20人以上は来ていただいていました。

田舎で人脈ゼロからのスタートで、この人数です。集客が失敗していたわけではありません。

それでも、2回目がなかなか来ない。 来たとしても1ヶ月後。早くて2週間後。

そんなペースで、良くなるわけがないんですよね。

なぜそんなペースになったか。僕が来院指導をしなかったからです。 そしてなぜできなかったか。お金のマインドブロックでした。

ここが、この章でお伝えしたい一番大事なところです。247人来て売上が立たない院と、同じ247人で売上が立つ院の差は、集客でも技術でもない。施術の最後の一言だけです。

7月に47万円まで伸びて、10月に30万円を切りました

夕方の受付で無地の帳簿を前に困った顔の院長
夕方の受付で無地の帳簿を前に困った顔の院長

人脈ゼロからのスタートだったので、「とにかく人に会いまくる」作戦で動きました。

サッカー関係者を訪ね歩き、経営者の朝活に参加し、異業種交流会に顔を出し、Facebookでコメントをくれた方にはそのまま会いに行く。スケジュール帳は、治療院の予約ではなく、人と会う約束で埋まっていきました。

開業1年目の売上の動き。1月6万円・7月47万円・10月に30万円を切る
開業1年目の売上の動き。1月6万円・7月47万円・10月に30万円を切る

その泥臭い努力の結果、2月から7月にかけて売上は右肩上がり。7月には月商47万円に到達しました。「このまま損益分岐点を超えられる」と感じていました。

ところが、8月から売上が下がり始めます。

  • 8月「まあ、お盆があったしな」
  • 9月「地域で一番大きな祭りの月だからな」
  • 10月「……もう言い訳のしようがない」

10月、月商が30万円を切りました。

そして、通帳の残高が100万円を切ったことに気づいたとき、震える手で父親に電話をかけました。父のアドバイスで支出を削減し、なんとか出血は止めた。でも売上が上向く気配はない。そのまま1ヶ月が過ぎました。

先輩が、無言で回数券を買っていった

その厳しかった10月のことです。

いよいよ経営が厳しくなってきて、JC(青年会議所)も辞めようかと思っていた時期でした。そんなとき、知り合いの先輩が施術を受けに来てくれていたんですが、ある日の施術後——

先輩は何も言わず、回数券をポンと買っていかれました。

無言で。「頑張れ」とも「応援してるよ」とも言われなかった。ただ、回数券を買って帰っていった。

その背中を見て、なんとも言えない気持ちになりました。言葉にされるより重い応援でした。

11月16日、兄の一言

夜の食卓で箸を止めてはっとする院長
夜の食卓で箸を止めてはっとする院長

11月16日の日曜日。突然、兄から電話がありました。「海が見たいから、今からそっちに行くわ」。

その夜、夕飯を食べながら経営の話になりました。僕はひとしきり言い訳を並べました。

並べていた言い訳と、兄の一言を並べた図
並べていた言い訳と、兄の一言を並べた図
  • 「経営経験が少ないからさ」
  • 「やっぱり田舎は市場が小さいんだよ」
  • 「ちゃんとセルフケアを教えてるから、みんなすぐ良くなっちゃうんだよ」
  • 「不況だから仕方ないよ」

一通り聞き終えた兄は、静かにまっすぐ僕の目を見て、こう言いました。

「お前さ、患者さんに『通ってください』って言ってる?」

たった一言。でも、何も言い返せませんでした。図星でした。

兄は続けました。

「治療家は、患者さんを治すのが仕事だろ。本当に治すためには、継続した治療が必要なんだよ。だから、患者さんは通った方が良くなるに決まってる」

その言葉で、ようやく気づきました。「通ってください」は、お金のための言葉じゃない。患者さんの身体を本当に良くするための、治療家としての責任ある提案なのだと。

変えるべきマインドは、ただ一つ

誰もいない待合室のソファで考え込む院長とハリーちゃん
誰もいない待合室のソファで考え込む院長とハリーちゃん

マインドの話は、あれこれ散らかりがちです。でも、僕がこの12年で骨身にしみたのは、たった一つでした。

「お金をもらうのが怖い」というブロックを外すこと。

これ一つです。他のこと(経営感覚、数字の読み方、仕組み化、集客)は、全部この後の章で扱う「技術」の話。マインドは、ただこれ一点。ここが外れるかどうかで、人生が変わります。

これは、僕だけの話ではありませんでした

もし僕一人の体験談なら、ここまで断言しません。

経営セミナーや研修会で、ほかの一人治療家の先生方と話す機会が増えてから、はっきり分かったことがあります。

月商50万円に届かない先生方の多くが、僕と同じ「お金のマインドブロック」を持っているんです。

技術が足りない、集客が足りない、という話ではありませんでした。お金に対して、卑しいような、申し訳ないような気持ちが自分の中にある。 それが、患者さんに「通ってください」を言わせない壁になっている。

技術の高い先生ほど、この傾向が強いように見えます。真面目に技術を磨いてきた方は、「技術で応えるべきで、お金の話を持ち出すのは筋が違う」と考えやすいからだと思います。

だから、この章は精神論の話ではなく、月商50万円の壁の正体そのものとして書いています。

なぜ怖かったのか

Jリーグ時代は、選手から直接お金をもらう機会がなかったんです。契約はチームと僕の間だけ。選手は言わなくても勝手にケアを受けに来る。10年間、目の前の人から「ありがとう」の対価としてお金を受け取る経験が、ほぼありませんでした。

その経験しかなかった僕は、「患者さんに通ってくださいと言うのは、お金のためにやっている卑しいことだ」と、無意識に感じていたのです。

これが、経営者としての僕の頭を縛り付けていた「お金のブロック」でした。

「大丈夫ですよ」と言ってしまった話

開業1年目。肩が痛くて通ってくださっていた患者さんに、本当は「来週もう一度見させてください」と言うべき場面でした。でも、僕の口から出たのは。

「大丈夫ですよ。また何かあったら、来てくださいね」

自分でもびっくりしました。通院提案ですらない、丁寧なお見送り。お金をもらうことが申し訳なくて、その患者さんの回復を、自分から遠ざけてしまった。今思うと、あれは「患者さんのため」ではなく、「自分の罪悪感を軽くするため」の発言でした。

そして、いま思い返すと、もっと恥ずかしいことをしていました。

患者さんのほうが、「来た方がいいですよね?」と、ずっとおっしゃっていたんです。

そのときの僕はどう答えていたか。

「いや、セルフケアをやれば大丈夫ですよ」

患者さんが自分から扉を開けてくれているのに、僕がその扉を閉めていた。お金をもらうのが怖かったからです。

セルフケアの指導そのものは、もちろん大事です。いまでもやっています。でもあのときの僕は、セルフケアを「通院指導をしないための逃げ道」として使っていました。 ここは、はっきり区別しないといけないところです。

回数券は、最初からありました

ここも正直に書きます。回数券は、開業当初から用意していました。父も治療院をやっていて、回数券を使っていたので、ネガティブなイメージは特になかったんです。

でも、作ってあるのに勧められませんでした。

「回数券を勧める=お金をお願いしている」みたいな感覚があって、どうしても一歩踏み出せなかった。回数券は受付に置いてある。でも自分からは案内しない。聞かれたら説明する。そんな消極的な状態がしばらく続いていました。

つまり僕の問題は、回数券という道具を持っていなかったことではなく、それを出す一言が言えなかったことでした。道具はあったんです。

言えない理由は、3つに整理できます

あれから12年。同じような悩みを抱える治療家の方と話してきた経験から、言えない理由は大きく3つに整理できます。

① 「お金のため」に見られたくない

一番多いのがこれです。でも、患者さんの立場からすれば、プロに「通った方がいい」と言われることは、むしろ安心感につながります。言わないことの方が、プロとして無責任です。

② 「断られたら怖い」

断られることへの恐怖が、言葉を止めます。ただ、実際に言ってみると、断る患者さんはほとんどいません。「今は難しいけど、できるときに来ます」という方がいたとしても、それはその方の事情であって、あなたの提案が間違っていたわけではありません。

③ 「自分の技術に自信がない」

「本当に通う価値があるのか」と自信が持てないと、言葉に力が入りません。「この患者さんは通った方が良くなる」という確信さえあれば、言葉は自然と出てきます。

3つの理由への、それぞれの答え

言えない理由が3つあると書きました。僕が実際にどう乗り越えたかを、理由ごとに書いておきます。

①「お金のため」に見られたくない への答え

検査を先にやってください。 検査をして、状態を共有してから頻度を伝えると、その提案は「検査の結論」になります。検査をせずに頻度だけ言うと、たしかに営業に聞こえます。

つまりこれは、マインドの問題であると同時に手順の問題でもあります。手順を変えると、罪悪感がかなり減ります。僕がいま「断られる要素がほとんどない」と言えるのも、結局この手順のおかげです。

②「断られたら怖い」への答え

断られる前提で言ってください。 断られたら、それはその方の事情です。あなたの提案が間違っていたわけではありません。

そして、実際に言ってみると分かりますが、断る方はほとんどいません。僕は12年でほとんど断られていません。怖さの見積もりが、現実より何倍も大きいだけです。

③「自分の技術に自信がない」への答え

これは、通院指導をしないと永遠に解決しません。順番が逆なんです。

通ってもらって、良くなるのを見て、はじめて自信がつきます。 自信がついてから提案しようとすると、提案する機会が来ないので、自信もつきません。

僕は1年目、この循環の外側にいました。兄の一言で、無理やり中に入れられた形です。

今も、続くチャレンジ

このマインドは、12年経った今も、時々顔を出します。たとえば新しいメニューを作るとき、値段を決めるのに毎回悩みます。「これだけもらって、釣り合うだろうか」。

そう思うたびに、自分に言い聞かせます。

「価値を正当に受け取らないと、本当に困っている人に続けて提供できない。」

これは、矯正し続けているマインドです。

もう一つの壁は、頻度が分からなかったこと

無地の予約ボードの前で回数を数える院長
無地の予約ボードの前で回数を数える院長

お金のブロックが一番の理由。これは間違いありません。でも振り返ると、もう一つ大きな理由がありました。「どれくらいの頻度で来てもらえばいいか、分からなかった」ことです。

Jリーグ時代は「毎日」が当たり前だった

僕はJリーグで10年、選手の身体を毎日見ていました。練習前・練習後・試合前・試合後。選手は来てくれるし、僕は毎日状態を把握できる。「今日は右太もものハリが強い」「昨日より可動域が出てきた」と、改善をリアルタイムで感じられる環境でした。

毎日ケアできる。毎日施術できる。これが僕の中の「普通」でした。

ところが、治療院で一般の患者さんを診るようになって、突然分からなくなりました。

一般の患者さんに「毎日来てください」は、費用的にも時間的にも非現実的です。じゃあ週何回? 月何回? 正直、分かりませんでした。「適切な頻度」の目安が、自分の中にありませんでした。

「責任が持てない」という、言葉にできない不安

確信が持てないまま「週1回来てください」と言うのは、なんだか無責任な気がしました。

「効果が出るかどうか分からないのに、お金を払わせていいのか」

この感覚が、「通ってください」という言葉を飲み込ませていた、もう一つの理由でした。断られることへの恐怖というより、自分自身への不信感だったんだと思います。

兄の二つ目の一言「週に1回通ってくださいと言いなさい」

11月16日の夜、兄は続けてこう言いました。

「定期的な施術が必要なので、週に1回通ってくださいと言いなさい」

シンプルすぎる答えでした。でも、それが正しかった。

頻度の正解が分からなくても、まず「週に1回」と伝える。当時の僕にとって、この一言が救いになりました。

兄に「一言一句変えるな」と渡された文面

そのとき、兄はもう一つ、厳しいことを言いました。

「通ってくださいと言えないのは、責任放棄だぞ」

「良くなりたいがために患者さんは来ているんだ。それを、良くなる術を知っているプロの施術家がしないっていうのは、職業放棄と変わらない」

言い返せませんでした。でも正直、自分ではどうしたらいいのか分からなかったんです。「通ってください」と、どう言えばいいのか。言葉が出てこない。

兄が言ったのは、こうでした。

「明日から全ての患者さんに、この言葉を一言一句間違わず言いなさい」

渡された文面は、これです。

「良くなるには継続した治療が必要です。今から1週間に1回来るようにしてください。」

たった2文です。アレンジもしません。一言一句そのまま、全員に言う。そう決めて、翌日からやりました。

この文面が、なぜ効くのか

いま12年やった立場から解説させてください。この2文、よくできています。

1文目「良くなるには継続した治療が必要です」 … 主語が「良くなるには」です。お金の話でも、こちらの都合の話でもなく、患者さんの目的の話から始まっています。 だから言いやすい。

兄に渡された2文を分解した図。1文目は患者さんの目的から始まり、2文目は言い切る
兄に渡された2文を分解した図。1文目は患者さんの目的から始まり、2文目は言い切る

2文目「今から1週間に1回来るようにしてください」 … 「来ていただけますか?」ではなく、「してください」で言い切っています。 お伺いではなく、プロとしての提案です。そして「今から」と時期が、「1週間に1回」と頻度が、両方入っています。

僕が自分で考えた言葉だと、必ずここに「もしよろしければ」とか「お時間があるときに」が混ざってしまう。それが入ると、患者さんは「行かなくてもいいのかな」と受け取ります。

だから、自分で考えないほうがいい。 最初は借り物の文面を、一言一句そのまま使ってください。

翌日、最初の患者さんが喜んだ

翌朝、治療院のドアを開けるのが少し怖かった。ちゃんと言えるだろうか。

最初の患者さんの施術が終わり、お見送りのときが来ました。心臓が口から飛び出しそうになりながら、こう切り出しました。

「あの……身体を本気で良くするためには、継続した治療が必要です。なので、週に一回、通ってください」

すると、その患者さんは、ぱあっと顔を明るくして言いました。

「そうですよね! 分かりました! 回数券、買います!」

喜んで……る?

頭をガツンと殴られたような衝撃でした。僕が「卑しいことだ」と思い込んでいた提案は、患者さんにとっては「プロからの、責任ある提案」として、すんなり受け入れられるものだったのです。

別の患者さんは、こうおっしゃいました。

「そうですよね、1回で良くなるわけないですよね。回数券、買ってきます」

僕があんなにためらっていた行為を、患者さんは待っていたんです。

その日から、来た患者さん全員に伝え続けました。数字はこう動きました。

月 売上
10月 296,000円 通帳の残高が100万円を切った月
11月 341,000円 16日に兄の一言。4ヶ月ぶりに前月を上回った
12月 569,000円 全員に伝え続けた最初の丸1ヶ月

11月から12月で1.7倍。10月と比べると1.9倍です。経営危機を脱しました。

人は、忘れる生き物です

なぜ通院指導が必要なのか。もう一歩踏み込んで書きます。

僕は当時、こう考えていました。「セルフケアを教えておけば、あとは自分でやってくれるだろう」。

でも、そうならないんです。人は忘れる生き物だからです。

生活のリズムを変えたり、習慣を変えたり、やるべきことをやっていけば、良くなることはあるかもしれない。でも、なかなかそれはできません。何が正しいかが、患者さんには分からないからです。 そして、忘れてしまう。

それを支えるのが、僕たちの仕事です。僕はそれを放棄していました。

だから「通ってください」は、お願いではありません。忘れる生き物である人間を、忘れないうちに次に繋ぐ仕組みです。そう捉え直したときに、僕はやっと言えるようになりました。

数字は、こう動きました

この一言を言い始めて、実際に何が起きたか。数字だけ並べます。

11月 341,000円 → 12月 569,000円(1.7倍)
翌年の売上:1年目の倍以上

やったことは、兄に渡された2文を全員に言っただけです。新しい技術は覚えていません。広告も打っていません。ホームページも触っていません。

言葉を一つ変えただけで、1.7倍。

「もう言わない方が失礼だ」に変わるまで

ただし、最初から気持ちよく言えたわけではありません。最初は苦しかったです。

それが、患者さんが喜ぶ経験のすり込みになっていきました。そして継続によって患者さんが目に見えて良くなることを、自分の目で確かめられた。

徐々に、徐々に、マインドが変わっていきました。

そして最後に、こういうところまで来ました。

「もう、言わない方が失礼だ」

ここまで来ると、もう戻りません。いま僕が「断られることはほとんどない」と言えるのは、話術を身につけたからではなく、この地点に立っているからです。

分からないなら、まず週1回でいい

頻度の最適解は、症状によって全然違います。でも、最適解を考え込むより、まず「週に1回」で統一するほうが、圧倒的に前に進みます。

この一言が自分の中にあると、施術の終わりに迷わなくなります。

分からないなら、まず週1回から。開業当初・3年目・いまの頻度の伝え方
分からないなら、まず週1回から。開業当初・3年目・いまの頻度の伝え方

僕はそこから始めて、3年目のときに、状態によっては週2回を提案するようになりました。

「提案」だけど、はっきり伝える

頻度は、いまも「提案」として伝えています。

ただ、はっきり伝えます。そう言わないと、なかなか良い方向に持っていけないからです。これは、開業当初からいまも変わっていません。

「改善している」が見えたとき、確信が生まれた

週1回通っていただくうちに、患者さんが実際に良くなっていく。

その積み重ねが、確信に変わりました。

「週1回来てもらえば、この方は良くなる」

この確信さえあれば、「通ってください」という言葉は自然と力を持ちます。逆に言えば、確信がないまま言っても患者さんには伝わらない。言葉の力は、確信に比例します。

【いまの形】12年かけて、決め打ちはこう育ちました

無地のクリップボードを持って説明する院長
無地のクリップボードを持って説明する院長

ここまでが、開業から2年目までの話です。ここからは、12年やった今、僕の院で実際に回している型をお見せします。

最初の「全員に週1回」は、捨てていません。育ちました。

いまは、初回の評価で頻度を分けています

まず、初回で評価をするときに、状態によって通院指導を変えています。

  • 状態が良くない方 … 最初から週2回以上を提案します
  • そこまで酷くないなと判断した方 … 週1回で提案することもあります

開業当初の「全員に週1回」から変わったのは、この一点です。評価して、分ける。 ここができるようになるまでに、僕は数百人の患者さんを診ました。

だから、もしあなたが今「分けられない」なら、それは当たり前です。分けられないうちは、決め打ちでいい。 分けるための材料は、決め打ちで診た人数の中に溜まっていきます。

8回目で、必ず検査をします

そして、ここが一番お伝えしたい部分です。

僕の院では、だいたいの患者さんが回数券を購入されます。 その回数券は8回券です。

だから、回数券の8回目のときに、検査をします。 そこでもう一度状態を測って、頻度の修正をします。

これが、いまの僕の型です。

初回の評価で頻度を決める → 8回通ってもらう → 8回目で測り直して、頻度を修正する

開業当初と違うのは、頻度を見直すタイミングを、感覚ではなく「8回目」という固定の点で決めていることです。8回目の検査のあとの頻度は、そのときの状態で決めています。

なぜ「8回」なのか

これは偶然ではありません。回数券の設計から来ています。

開業当初の回数券は、39,000円の10回券(1回あたり3,900円)でした。 それを2015年に8回券へ変えました。このとき「8回」という区切りが、僕の院の標準になりました。

初回の評価で頻度を分け、8回目に検査して修正するサイクル図
初回の評価で頻度を分け、8回目に検査して修正するサイクル図

区切りが8回だと、週1回の方はちょうど2ヶ月で戻ってきます。週2回の方なら1ヶ月です。「そろそろ測り直したほうがいいな」と思う時期と、回数券が終わる時期が、だいたい重なる。 これが回しやすさの理由です。

あなたの院の回数券が10回なら、10回目で測ればいい。数字そのものより、「回数券の終わりを、検査のタイミングとして使う」という設計が大事です。

断られることは、ほとんどありません

正直に書きます。いま、通院指導を断られることはほとんどありません。

自信があるから、という話ではないです。理由はもっと単純で、状態をこちらが確認して、それに必要なことを伝えているからです。

検査をして、いまどういう状態かを共有して、そこから必要な頻度を伝える。この順番を踏んでいれば、断られる要素がほとんどないんです。

逆に言うと、開業1年目の僕が断られるのを怖がっていたのは、検査と共有を飛ばして、頻度だけを言おうとしていたからです。根拠のない提案は断られます。根拠のある提案は、ほとんど断られません。

ただし、こういう傾向はあります

きれいな話だけでは終わらせません。ひとつ、はっきりした傾向があります。

回数券を買わない方は、通わない方が多いです。

これは、僕の院の12年の実感です。回数券は割引のためのチケットではなく、「通う」という意思決定そのものなんだと思っています。その意思決定をしていない方は、次の予約が入っていても、途中で来なくなることが多い。

だからこそ、回数券を「お得ですよ」で売ってはいけない。治療計画とセットで出す必要があります。後でその条件を書きます。

受付が、ペースを伝えてくれています

もうひとつ、いまの形として大事なことがあります。僕一人で回しているわけではありません。

受付が、患者さんにペースを伝えてくれています。 そして、回数券を買うとまとめ予約ができるので、予定が分かる方には、その場で全部入れてもらうようにしています。

ここは、一人治療院の方にぜひ真似していただきたい部分です。「週1回、8回」と決まったなら、その8回分の予約を、その日に全部押さえる。 患者さんは「次いつ行こう」と考えなくてよくなる。こちらは先の予約が見える。両方が楽になります。

受付がいない院でも、これは同じです。会計のときに手帳を出してもらって、8回分を一緒に書き込む。それだけで、離脱は確実に減ります。

リピートは「施術前」に決まっています

丸椅子に座って丁寧に説明する院長
丸椅子に座って丁寧に説明する院長

3年目に、もう一つ大きな転機がありました。

きっかけは、治療院支援協会の「2ミリオンクラブ」というプログラムで学んだ教えです。そこで教わったのが、この4つのステップでした。

問診→検査→カウンセリング→施術の4ステップ。決まるのは3番目
問診→検査→カウンセリング→施術の4ステップ。決まるのは3番目

問診 → 検査 → カウンセリング → 施術

  1. 問診 … しっかりと身体の状態を聞く
  2. 検査 … こちらで状態を把握し、評価する
  3. カウンセリング … どんな状態で、改善するにはどれくらいの頻度で、どれくらいの期間が必要かを伝える。「よろしければ、このまま進めていきます」
  4. 施術 … そして施術に入る

この流れを知ったとき、衝撃を受けました。

回数券を購入するかどうか——つまりリピートするかどうかは、施術前に決まっている。

しっかり問診して、検査して、カウンセリングで誠実に状態と治療計画を伝える。この流れの中で、患者さんは「この先生に任せよう」と決めているんです。

施術後に何を言うかではなく、施術前の流れをどう作るか。 ここにリピート率の鍵がありました。

正直に言うと、兄の一言のあとの2年目時点では、リピート率が何%だったか数字では分かりません。リピート率という概念自体を、まだ知らなかったからです。 おそらく50%もいっていなかったと思います。それでも「通ってください」と明言するようになっただけで、確実に何かが変わり始めていました。

そして3年目、この4つの流れを実践し始めてから、リピート率は大きく上がっていきました。

僕のリピート率が変わった転機は、2回だけ

振り返ると、たった2回です。

  1. 明言したこと … 「良くなるには継続した治療が必要です。今から1週間に1回来るようにしてください」と言えるようになった(兄の一言)
  2. 仕組みにしたこと … 問診→検査→カウンセリング→施術の流れを作った(3年目)

どちらにも共通しているのは、誠実に、患者さんに伝えるべきことを伝えたということだけです。

リピート率を上げるテクニックがあるわけではありません。身体がつらくて来ている患者さんに対して、「どうすればよくなるか」を伝えないほうが、よほど不誠実です。

売上の公式を知った日

無地のホワイトボードの前で指を3本立てる院長
無地のホワイトボードの前で指を3本立てる院長

もうひとつ、マインドが動いた瞬間があります。2年目の大晦日です。

そのころ、月商は89万円まで伸びていました。人脈ゼロからのスタートだったことを思えば、本当に嬉しい数字でした。予約率も高く、患者さんとの関係も温まっていた。

でも、そこから先に進めない。何度チャレンジしても、90万円の壁が越えられない。

「この町の規模的な限界なのかな」。いつしか、そう思うようになっていました。

実家で家族と年越しを過ごす中、また経営の話になりました。僕が言い訳を並べたあと、兄は静かに言いました。

「お前は、根本的に売上の仕組みが分かっていない」

そしてシンプルな公式を教えてくれました。

売上 = カルテ枚数 × 単価 × 来院頻度

「お前が今できているのは、カルテ枚数を増やすことだけだ。売上を上げる方法は、あと二つある。単価も頻度も、まだまだだ」

目から鱗が落ちました。シンプルすぎる。なのに、なぜ今まで気づかなかったのか。

「世の経営者は、こうやって数字を分解して考えているのか」。その瞬間、僕の頭の中に初めて「経営の地図」が広がった感覚がありました。

3本のレバー

この公式には、売上を動かす3本のレバーが入っています。それぞれ独立して動かせます。

レバー 中身 動かし方
カルテ枚数 新規患者数 集客・紹介・SNS・チラシ。最も分かりやすいが、一人治療院では上限がある
単価 1回あたりの施術料金 技術・価値の見せ方・メニュー構成。場所に関係なく上げられる
来院頻度 1人が月に何回来るか 提案の仕方一つで変わる。最も見落とされている
売上=カルテ枚数×単価×来院頻度。売上を動かす3本のレバーの図
売上=カルテ枚数×単価×来院頻度。売上を動かす3本のレバーの図

3つのうち、どれか一つを2倍にすれば売上は2倍になる。全部を1.3倍ずつ改善すれば、2.2倍になる。

僕が2年間、動かしていなかったレバー

兄の話を聞いて、すぐに気づきました。

僕が2年間やり続けていたのは、「カルテ枚数を増やすこと」だけだった。人に会い、頭を下げ、サッカーのコミュニティに入り、新規患者を増やす努力を積み重ねてきた。

でも「単価」と「来院頻度」には、ほとんど手をつけていなかった。

なぜ触らなかったのか。単価を上げることへの罪悪感。「週2回来てください」と言えない恐怖。 どちらもマインドセットの問題でした。やり方ではなく、考え方が変わっていなかった。

そして、ここが一番大事なところです。

僕は「田舎だから売上が上がらない」と思っていました。でも、田舎が影響するのはカルテ枚数(新規患者の数)だけです。単価と来院頻度は、場所とは関係ありません。 今いる患者さんとの関係の中で、いくらでも動かせます。

僕がずっと「田舎の限界」と呼んでいたのは、実はレバーを一本しか触っていなかった自分の問題でした。

地図を手に入れた3年目

公式を知った僕は、3年目の年明けに改革を一度に断行しました。

週休2日・8時間労働に縮小しながら、施術を30分に短縮し、週2回の来院を提案する。単価と頻度を同時に動かす挑戦でした。

結果、改革初月の月商は110万円。 2年間越えられなかった89万円の壁が、翌月にあっさり突破されました。

しかも、労働時間を減らした状態でこの数字が出ています。

「地図」があれば、闇雲に走らなくていい。どのレバーを、どれだけ動かすかを考えながら動ける。その違いは、想像以上に大きかったです。

値上げの話を、記録ごと全部出します

壁の無地の料金プレートに手を伸ばす院長
壁の無地の料金プレートに手を伸ばす院長

さて、単価の話です。ここは実数を出します。

先に結論を言うと、値上げそのものは、いま振り返るとそんなに怖くありませんでした。 怖かったのは値段ではなく、「通ってください」と言うことでした。この2つは、僕の中ではまったく別の恐怖です。

そして記録を見ると、それを裏づける形になっています。2回の値上げは、どちらも開業3年以内に終わっているんです。

実際の推移

時期 施術料 回数券 きっかけ
2014年(開業時) 4,400円 39,000円(10回券・1回3,900円) —
2015年(2年目) 5,500円 40,000円(8回券・1回5,000円) 自分で「ちょっと安すぎたな」と判断
2016年(3年目) 6,600円 44,000円(8回券・1回5,500円) 治療院支援協会での学び
現在 6,600円 44,000円 10年間、据え置き

この表の一番下、そこを見てください。2016年から10年間、僕は施術料を変えていません。

1回目の値上げは、自分の判断でした

最初の値上げは2015年。自分で「ちょっと安すぎたな」と思っての決断でした。誰かに言われたわけではありません。

このとき、回数券も10回から8回に変えています。単価が上がり、区切りが8回になった。いまの「8回目で検査」の型は、ここから始まっています。

2014年から現在までの施術料と回数券の推移表。2016年から10年据え置き
2014年から現在までの施術料と回数券の推移表。2016年から10年据え置き

値上げした状態で1年間やってみました。予約率は80%を超え、毎日精一杯施術をしていました。でも、売上は89万円止まり。100万円には届かなかった。

「こんなもんかな」——正直、そう思っていました。

そしてその年の大晦日に、兄から売上の公式を教わります。予約率はもう80%を超えている。これ以上、回数を増やすのは難しい。だとしたら、変えるべきは「単価」だったんです。

2回目の値上げを決めた、一つの言葉

兄が教えてくれたのが「治療院支援協会」の存在でした。月額1万円で、月に1回動画が更新される。その動画で経営の原理原則を学ぶという形式です。

学ぶうちに、翌年4月から「2ミリオンクラブ」というプログラムが始まることを知り、申し込みました。

そこで言われた言葉が、今でも心に残っています。

「先生方の技術って、そんなに安いものでしょうか。まず3年間専門学校に行って、それからもずっと臨床を続けてきた。その技術は、そんなに安いものではないと思います」

この言葉で、覚悟が決まりました。

恐怖の中身は、全部「かもしれない」でした

値上げを前に何を考えたか、分解して書いておきます。

  • 「今の患者さんが離れるかもしれない」
  • 「高いと思われて、新規が来なくなるかもしれない」
  • 「近くに安い治療院があるから、そっちに行くかもしれない」

全部「かもしれない」なんですよね。 実際に起きたことではなく、自分の頭の中だけの話でした。

冷静に考えてみると、自分が本当に大切にしたい患者さんは、500円や1,000円の差で来なくなるような方ではありませんでした。

そして、これは書いておきたいことですが——「安さ」で選ばれた患者さんは、「もっと安い場所」が見つかれば、そちらに行きます。 これは値段の問題ではなく、信頼関係の問題です。

実際にやった手順は、2つだけ

① 既存の患者さんには、2ヶ月前に告知

今通院している患者さんには「2ヶ月後に値上げします」と直接伝えました。突然の変更は不信感につながります。時間をかけて丁寧に伝えることが大切でした。

② 新規の方は、その日から新料金

新しく来る方には、告知した日から新料金を適用しました。既存の方への配慮と、新規への切り替えを分けることで、スムーズに移行できました。

実際に起きたこと

正直、値上げした月は緊張しました。予約が減るかもしれない。クレームが来るかもしれない。

やはり来なくなった方は、一定数いました。 正確な割合は覚えていませんが、ゼロではなかった。ここは正直に書きます。

でも、想像していたよりもずっと多くの方が残ってくれました。「先生の技術なら当然ですよ」「もっと早く上げてよかったのに」——そう言ってくださる方もいました。

そして数字は、こう動きました。

実売上 89万円 → 124万円(回数券購入分を含めると135万円)

同じ施術数でも、単価が上がったことで売上が大きく変わりました。約40%のアップです。

10年据え置いている理由

ここで、あえて逆のことも書きます。

僕は2016年以降、10年間値上げをしていません。 「単価は場所に関係なく上げられる」と書いた僕が、10年動かしていない。

これは怠慢ではなく、いまの価格で、僕が幸せに回せているからです。次の章(自分が一番幸せになれる収入を、自分で決める)で詳しく書きますが、僕は一度「月商200万円」を目標にして、そこで苦しくなった経験があります。

値上げは手段です。目的ではありません。 上げるべきときに上げられる状態を作っておくこと、それが大事で、常に上げ続けることが正しいわけではない。ここは誤解しないでいただきたいところです。

10人目・50人目・100人目で、何が変わるか

胸に手をあてて深呼吸する院長
胸に手をあてて深呼吸する院長

通院指導を決め打ちで始めると、自分のマインドはこんな段階で変わっていきます。

1人目〜10人目:声が震える

最初は本当に怖いです。「来週、もう一度見させてください」と言うだけなのに、声が震える。患者さんの目を見て言えない。断られたら、「やっぱりダメだ……」と落ち込む。このフェーズは、僕も全員通る道だと思っています。

11人目〜50人目:徐々に言えるようになる

10人ほど続けると、何かが変わります。通って良くなった患者さんが「あのとき、続けてよかった」と言ってくれる経験が積み上がります。「ちゃんと提案してよかった」という納得感が、自分の中に少しずつ蓄積していきます。

それでも、言うときの「申し訳なさ」はまだ残っています。

51人目〜100人目:自然に出るようになる

50人を超えてくると、通院指導が自然な施術の一部になります。「次回は1週間後に」と、無意識に言えるようになる。患者さんのほうも「先生がそう言うなら」と素直に受け止めてくれることが増えます。

このフェーズで、ようやく「お金をもらうのが申し訳ない」という気持ちが薄れます。

100人目以降:自分のフォーマットが育つ

100人を超える頃には、自分なりの判断基準が育ちます。「この状態なら最初から週2回以上」「この方は週1回でいい」という分岐ができてくる。僕がいまやっている「初回評価で分ける」は、この延長線上にあります。

ここまで来ると、もう「指導するか迷う」段階は卒業しています。

頻度は、体の状態の「段階」で伝えています

「来週、もう一度見させてください」だけだと、患者さんも不安になります。いまの僕は、体の状態を4つの段階に分けて(4ステージ理論)、その段階に合った頻度を伝えています。

  • ステージ1 … 誰が見てもつらい状態。最低でも週2回(「週2回がミニマム」という言い方をしています)
  • ステージ2 … 仕事も生活もできているけれど、症状が常にある。週1〜2回
  • ステージ3 … 日常生活は問題ないけれど、無理ができない・スポーツができない。週1回、もしくは2週に1回
  • ステージ4 … 無理も効く・スポーツを楽しめる。頻度は自由
体の状態の4つの段階と、それぞれの頻度
体の状態の4つの段階と、それぞれの頻度

ステージ3で通うのをやめてしまう方が多いのですが、そうするとぶり返します。体の機能が、まだ戻っていないからです。

この段階の伝え方は、『施術の仕組み化の教科書』に詳しく書いています。

初回の流れを、通しで書いておきます

バラバラのフレーズだと使いづらいので、初回の流れに並べ直します。前に書いた4ステップの中で、どこで何を言うかです。

① 問診

身体の状態をしっかり聞きます。ここではまだ、頻度の話も料金の話もしません。

② 検査

こちらで状態を把握して、評価します。可動域でも、圧痛でも、姿勢でも構いません。大事なのは「次回、同じ検査ができる」ものを選ぶことです。これが8回目の測り直しで効いてきます。

③ 評価と説明(ここで頻度を伝える)

検査の結果を共有して、いまの体の段階と、そこから必要な頻度を伝えます。そのうえで施術の方法も話し、質問がないかを確かめてから施術に移ります。

回数券のご案内は、ここではしません。初回の施術が終わったあと、会計のときです。

④ 施術

そして施術に入ります。

施術の後に頑張って説得する必要は、ありません。 リピートは③で決まっています。会計のときは、③で伝えた頻度に合わせて、回数券と次回の予約をご案内するだけです。

受付がいない院では、どうするか

うちは受付がペースを伝えてくれますが、一人で回している方も多いと思います。その場合はこうしてください。

会計のときに、手帳かスマホを出してもらう。 そして、「では来週の同じ時間で」と、その場で次を入れます。8回分の予定が分かる方なら、8回とも入れてしまいます。

「あとで電話します」で帰られた方は、電話が来ないことのほうが多いです。次の予約は、その場でしか取れません。

やってはいけない3つ

両手を前に出して「待って」の仕草をする院長
両手を前に出して「待って」の仕草をする院長

回数券を最初から強く勧めすぎる。 状態も伝えないうちに「うちは回数券がお得です」と言うと、「営業された」と感じられます。回数券の話は、状態と頻度を共有して、施術を受けていただいたあとの会計のときに出すものです。

「もっと頻繁に来ないと治らない」と煽る。 不安を煽る伝え方は、その場では予約が取れても、長期的には信頼を失います。「治らない」ではなく「こうすると、もっと早く戻ります」と伝えてください。

通院指導でやってはいけない3つ
通院指導でやってはいけない3つ

全員に同じ頻度を機械的に勧め続ける。 決め打ちで始めるのは正解ですが、慣れてきたら状態に合わせて分ける引き出しを増やしてください。僕自身、「全員に週1回」から「状態によって週2回を提案する」ようになったのは、3年目のときです。

回数券が「安心のチケット」になる条件

完全に無地のカードを両手で差し出す院長
完全に無地のカードを両手で差し出す院長

回数券がただの割引チケットになるか、患者さんの「安心のチケット」になるかは、出し方次第です。

① 治療計画とセットで提案する

回数券が安心のチケットになる3つの条件
回数券が安心のチケットになる3つの条件

「回数券いかがですか?」ではなく、評価と説明で伝えた体の状態と頻度に合わせて、回数券をご案内する。和からだの回数券は8回で、その8回目が再検査の区切りです。

これができていると、回数券は「計画を実行するためのツール」になります。患者さんにとっても、区切りが見えるから安心する。「いつまで通えばいいか分からない」という不安がなくなります。

② 「通ってください」と言い切る

遠慮は不要です。患者さんの身体を良くするために必要なことを、自信を持って伝える。曖昧な提案は、患者さんを迷わせるだけです。

③ 有効期限を適切に設定する

僕は最初、有効期限を設定していませんでした。2016年に3ヶ月に設定しました。ある程度の期限があったほうが、患者さんも「ちゃんと通おう」というモチベーションになります。

回数券は、患者さんが継続して通いやすくなる仕組みです。継続して通えば、身体は改善に向かう。だから回数券を提案することは、患者さんの健康を守る行為です。

大事なのは、「何のための回数券か」を患者さんにきちんと伝えること。それができていれば、患者さんはうれしそうな顔で回数券を手に取ってくれます。

「職人」から「経営者」へ

施術ベッドと机の真ん中に立つ院長
施術ベッドと机の真ん中に立つ院長

通院指導が自然にできるようになると、もう一つ大きな変化が起きます。自分の役割が「職人」から「経営者」に切り替わることです。

職人マインドは、技術を磨くことが最大の関心で、お金の話は下世話だと感じ、数字を見るのが苦手です。施術の質を上げる原動力ですが、経営の判断には向きません。

経営者マインドは、技術と数字を同時に見て、適正な対価をいただくのが当たり前で、仕組み化に積極的です。切り替わると、見える景色が全く変わります。

「経営者になると、技術が落ちないか」と心配する方もいるかもしれません。僕の経験では、逆です。予約対応で1日1時間使っていた時間が、技術研鑽に使える。会計で月末に深夜まで残業していた時間が、患者さんを観察する時間に使える。

経営者マインドは、職人マインドを捨てることではなく、職人としての時間を確保する手段です。 ここを誤解しないでください。

このブロックは、経験でしか外れません

院の戸口で外に手を振って見送る院長とハリーちゃん
院の戸口で外に手を振って見送る院長とハリーちゃん

正直に言います。お金のブロックは、本を読んでも、セミナーに出ても、AIと壁打ちしても、外れません。外れるのは、たった一つの方法だけです。

毎日、目の前の患者さんに通院指導を繰り返す。

通院指導をする。通ってくれる。良くなる。感謝される。「ちゃんと提案してよかった」と自分が納得できる。だから次の患者さんにも自然に言える。売上は、後からついてきます。

「売上が上がる」=「患者さんが良くなる」。この式が自分の身体に染み込んだ瞬間、お金のブロックは静かに外れていきます。

1回の成功では外れません。薄皮が1枚ずつ剥がれます

ここも正直に書いておきます。

マインドブロックは、1回の成功で外れるものではありませんでした。

最初の患者さんが喜んでくれた。回数券を買ってくれた。それでも次の日、次の患者さんの前で、また同じことを思うんです。

  • 「今回は断られるかも」
  • 「今回は嫌な顔されるかも」

毎回、毎回、ドキドキしながら言い続けました。

でも、患者さんが通ってくれて、実際に身体が良くなっていく。その小さな成功体験を、一つひとつ積み重ねていきました。

そうしているうちに、薄皮が1枚ずつ剥がれるように、マインドブロックが少しずつ外れていったんです。

一気には剥がれません。だから「1回言ってみて怖かったから、自分には向いていない」と結論を出さないでください。1回で外れる人はいません。剥がすのに必要なのは勇気ではなく、回数です。

12年経った今も、ゼロかと言われると分かりません

最後に、格好つけずに書きます。

12年経った今でも、このブロックが完全にゼロになったかと言われると、分かりません。少し残っているかもしれない。新しいメニューの値段を決めるとき、いまでも手が止まります。

でも、患者さんとの信頼の積み重ねが、ブロックを少しずつ溶かしてくれている。そういう実感があります。

完全に消えなくていいんです。言えるようになれば、それで十分です。

そして12年経つと、「断られる要素がほとんどない」状態になります。特別な話術を身につけたからではありません。検査をして、状態を共有して、必要なことを伝える——その順番を守り続けただけです。

自己チェック:いま、どこが欠けていますか

完全に無地のチェックシートを見比べる院長
完全に無地のチェックシートを見比べる院長

この章の内容を、確認できる形にしておきます。月商50万円に届いていない方は、ほぼ必ずどこかに「いいえ」が並びます。

① 言葉が出ているか

自己チェック。言葉・根拠・仕組み・単価の4カテゴリ
自己チェック。言葉・根拠・仕組み・単価の4カテゴリ
  • [ ] 施術の最後に、次回の来院を自分の口から伝えている
  • [ ] 「もしよろしければ」「お時間があるときに」を付けずに言い切れている
  • [ ] 「セルフケアをやれば大丈夫ですよ」で終わらせていない

② 根拠があるか

  • [ ] 初回に検査をして、状態を患者さんと共有している
  • [ ] 「どれくらいの頻度で、どれくらいの期間か」をカウンセリングで伝えている
  • [ ] その頻度を、自分の言葉で説明できる

③ 仕組みになっているか

  • [ ] 問診 → 検査 → カウンセリング → 施術の順番が固定されている
  • [ ] 次回の予約を、その日のうちに取っている
  • [ ] 回数券を、治療計画とセットで出している
  • [ ] 回数券の終わり(8回目など)に、測り直す決まりがある

④ 単価を見ているか

  • [ ] 自分の施術料をいつ決めたか、覚えている
  • [ ] 前回いくらから変えたか、記録が残っている
  • [ ] 「安すぎるかもしれない」と考えたことがある

50万円の壁と、100万円の壁は、別物です

ひとつ補足しておきます。

50万円を超えてから100万円までの間には、また別の壁があります。 そして、そこを越えるのに必要だったものは、マインドではありませんでした。

月商100万円を突破するのに必要だったのは、仕組み化でした。

問診 → 検査 → カウンセリング → 施術。この4つの流れを固定したこと。施術を30分に区切ったこと。週2回の来院を設計として提案できるようにしたこと。これは全部、仕組みの話です。 マインドが変わっただけでは、ここには届きませんでした。

だから、この2つの壁は分けて考えてください。

壁 正体 どの章か
月商50万円 お金のマインドブロック この章
月商100万円 施術の仕組み化 第4章

仕組み化そのものは第4章で扱います。この章では、その入口として「リピートは施術前に決まっている」という一点だけをお伝えします。

ただ、最初の50万円の壁は、ほとんどの場合「お金のマインドブロック」です。

これを外せるかどうかが、一人治療家としての最初のターニングポイントになると、僕は本気で思っています。

だから、いま50万円に届いていない方は、固定費でも集客でもなく、ここだけを見てください。 技術を磨く必要も、広告を出す必要も、まだありません。

「いいえ」が多かった方へ

落ち込まないでください。開業1年目の僕は、この全部が「いいえ」でした。新患247人を集めておきながら、全部「いいえ」だったんです。

そして、この中で最初に変えるべきは①だけです。②③④は後から追いかけてきます。僕の場合、①を変えた翌月に売上が1.7倍になり、②③は3年目に、④は2年目と3年目に手をつけました。

順番を守ってください。言葉が先、仕組みは後。

両手のひらを上に向けて言葉を伝える院長
両手のひらを上に向けて言葉を伝える院長

今日やること

次に来院される患者さんに、「来週、もう一度見させてください」と、自分の口で言う。それだけです。

言えたら、その方の予約をその日のうちに手帳に入れてもらう。ここまでやってください。

その一言と、その1件の予約が、12年先のあなたのマインドを確実に変えます。

この続きは、教科書に。

休む時間・家族との時間・地域との時間・自分の時間は、精神論では取れません。固定費を下げ、数字を読み、仕組みを作って、はじめて取れます。その順番を全部入れたのが「ひとり治療院 自立の教科書」です。まだ迷っているなら、まずは毎週のメルマガから。